表題番号:2025R-012
日付:2025/11/08
研究課題近代日本の国家主義と井上哲次郎
| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 文学学術院 文学部 | 教授 | 真辺 将之 |
- 研究成果概要
- 井上哲次郎(1856–1944)は、明治期から昭和前期にかけての日本思想史において、国家主義思想の形成と定着に際し中心的な役割を果たした哲学者・思想家である。その活動領域は哲学・宗教・倫理・教育・政治思想と多岐にわたり、国家と個人、宗教と道徳、学問と政治との関係をめぐる議論において決定的な影響を及ぼした。しかし、その重要性にもかかわらず、井上の思想を通時的・体系的に把握し、生涯にわたる思想変遷を総合的に検討した研究はいまだ存在しない。本研究は、この空白を埋めることを目的とし、井上哲次郎の国家主義思想を実証的かつ理論的に解明することを目指したものである。特に研究費の趣旨から、今後の本格的な科研費申請に向けた基盤整備研究として位置づけ、資料収集と分析体制の構築を進めた。具体的には、井上が哲学者として自らの思想の根幹に据えた「現象即実在論」という普遍主義的・形而上学的原理と、宗教・道徳・教育・政治において展開された国家主義的言説という、表面的には相反する二つの思想的ベクトルを、彼の生きた時代状況──すなわち明治国家の形成、日清・日露戦争を経た帝国的拡張、そして大正デモクラシーから昭和初期の全体主義的風潮に至るまで──の中でどのように接合・変容させていったのかを明らかにすることを主眼とした。そのために、主要著作および講演録、雑誌論文等を網羅的に整理し、テキストデータベースとして入力を進めるとともに、原典の複写あるいは現物資料としての蒐集を行った。また、同時代人による井上思想の紹介・批判・受容を示す記事・論考を収録した関連資料目録を整備し、併せて現存する井上書翰(往復書簡)を対象とする全文データベースの構築を目指し、既存資料の精査と新出書簡の補充作業を実施した。これらの成果は、井上哲次郎研究の基礎的環境を整備し、近代日本における国家主義思想の生成過程を再検討するための重要な一歩となった。