表題番号:2025Q-030 日付:2026/04/03
研究課題生命の価値と「尊厳」をめぐる表象文化と人文知の再検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 人間科学部 教授 福島 勲
研究成果概要
 生命が持つ価値や「尊厳」が表象文化や人文知の中でいかに扱われてきたかを検討すべく、パリ、リスボン、ウィーンの三都市で調査を行った。
 パリでは、フランス国立図書館(リシュリュー館)内の博物館にて、思想家ジョルジュ・バタイユが『ドキュマン』誌掲載の「アカデミックな馬」、「低次唯物論とグノーシス」で論じた古銭を実見し、古代の人間表象における強調の違いがいかなる人間観に由来するのかを検討した。また、パリ近郊のジャン=フランソワ・ミレーのアトリエでは、《晩鐘》を代表作とする画家ミレーが農村の人々に見出した「尊厳」のあり方について検討した。また、上記のリシュリュー館で開催されていた《Impressions Nabi》におけるモーリス・ドニとピエール・ボナールらの人物表象、ギュスターヴ・モロー美術館におけるモローの人物表象についても検討を行った。さらに、パリ・デカルト大学構内の医学史博物館の調査も行い、医学が「生命」をいかに助け、また、いかにそれに介入してきたかの歴史について知見を深めた。
 リスボンでは、1755年のリスボン地震で倒壊したままに残されたカルモ修道院の廃墟を調査し、地震という自然災害が当時のキリスト教信仰に基づく世界観にもたらした影響を検討した。また、アルジュべ博物館(1926年から1974年までの独裁政権時代についての博物館)を訪れ、政治的弾圧下で浮かびあがる人間の「尊厳」の輪郭、また、その展示によって表象される「尊厳」とは何かを検討した。
 ウィーンでは、フロイト博物館で精神分析学の誕生の場を実見するとともに、人間の「こころ」に精神分析という手法がもたらした抵抗感や治療的な効果について「尊厳」という観点から検討した。また、同館には、ユダヤ人としてロンドンに亡命せざるをえなかったフロイト一家をめぐる展示があり、時代や思想によって「尊厳」の消失や復権が起こりえる危険性について教えられた。