表題番号:2025Q-004
日付:2026/04/03
研究課題〈クラッシュ〉と〈プレザンス〉の想像力――モダニズムにおける〈脱中心化〉の系 譜
| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 法学学術院 法学部 | 教授 | 谷 昌親 |
- 研究成果概要
- 2025年度は、〈クラッシュ〉と〈プレザンス〉の問題を、言語学者ヤコブソンが提唱したメタファー(隠喩)とメトニミー(換喩)に関係づけつつ、視覚論のほうに引き寄せて考察した。その際にまず参考にしたのは柄谷行人の近代文学批判であり、彼は、絵画において遠近法が近代的な「風景」をもたらしたのと同じく、文学においても、三人称客観描写が一種の遠近法として機能したとみなした。語りの視点が固定されて「風景」が出現し、その「風景」と表裏一体のかたちで「内面」が生まれたということになるが、そうした制度としての近代文学に反発した作家として柄谷は、夏目漱石を挙げ、彼を一種のフォルマリストと見なしつつ、その文学観をヤコブソンのメタファー/メトニミーをめぐる議論と比較していたのである。 そうした近代文学の乗り越えをクレオール文学に接続させる試みとして、「異邦人の声に耳を傾ける」という一文を論文集『異邦人のフランス語圏文学』のために執筆した。その後、遠近法的な枠組みについてさらに考察すべく、絵画の遠近法がデカルト哲学と結びつくとするマーティン・ジェイの視覚論を参照しつつ、研究領域を視覚芸術まで広げた。ジェイによれば、近代における支配的な視覚制度であるデカルト的遠近法主義からの逸脱として、描写術とバロックが絵画には存在したというのだが、そうした描写とバロックを、絵画のみならず、写真や映画のうちにも探り、さらには、それぞれをメタファー的、メトニミー的と読み替えつつ、文学にも応用することを試み、「脱中心化するモダニティ――デカルト的遠近法主義からの逸脱」という論文にまとめた。 残念ながら、そのようなメタファー的(バロック的)作用とメトニミー的(描写的)作用をミシェル・レリスにおける〈クラッシュ〉および〈プレザンス〉と詳細に比較検討するところまでは研究を進めることはできなかったので、それは今後の課題としていきたい。