表題番号:2025C-697 日付:2026/03/23
研究課題唐代文学に見る科挙と受験文化の諸相に関する基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 准教授 谷口 高志
研究成果概要
 唐代の詩文には、科挙の受験勉強に言及したものが、初唐期・盛唐期の頃から散見されるようになり、中唐期に至るとその数は飛躍的に増加する。そのなかで、とりわけ注目されるのは、中唐の元稹と白居易が自身の挙業を〈苦学〉として表現していることである。彼らは受験生時代、懸命に読書に励み、身体を損耗させながら文才を磨いたことを、たびたび詩文に詠っている。このことは、中国の文人たちの勉学のあり方、ひいては日常の生活様式や価値意識が、中唐期に大きく変質しつつあったことをおそらく物語っている。
 本研究では、こうした問題を検討していくための予備的考察として、元白に先立つ初唐期および盛唐期の詩文に着目し、科挙がどのような経験として詠まれているか、そのための勉学がいかなるかたちで表現されているのかを分析した。その主な成果が、論文1)「初盛唐期における科挙と勉学――陳子昂・岑参・杜甫を例として」である。同論文では、初盛唐期を代表する文人、陳子昂・岑參・杜甫の三人の事例について概括的な考察を試みた。その考察を通して、科挙のための〈苦学〉が詩文に詠まれだし、〔苦学→及第→立身出世〕という階梯が、文人たちの間で徐々に意識されだしたこと、その一方で自身の科挙受験はなお挫折の経験として語られることが多く、〈苦学〉の記憶が肯定的に捉えられるには到っていないことを指摘した。科挙のための〈苦学〉が、一つの成功体験として積極的・集中的に語られるようになり、努力と勤勉を重んじる価値観が高まりを見せるのは、中唐の元稹・白居易を待たねばならないと思われる。その具体的な考察については今後の課題としたい。