| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 文学学術院 文学部 | 教授 | 三浦 清美 |
- 研究成果概要
本研究の課題の遂行のために、具体的なテクストとして『セルビア版アレクサンドロス大王物語』、『ステファニトとイフニラト』、『ドラクラについての物語』を選んだ。これらの作品は、中世ロシア語から現代日本語に課題遂行者によって翻訳された。本研究ではさらに、これらの物語を通じて、戦争への意思がどのように形成されていくのかを考察した。戦争への意思の根底には、戦争の指導者をある種の救済者と捉え、英雄視する心理的傾向があることが、14世紀後半にセルビアで制作されたと考えられる『セルビア版アレクサンドロス』において明瞭に確認された。ことに、『セルビア版アレクサンドロス大王物語』では、アレクサンドロス大王を、天上の神、イエス・キリストの地上における代理人=アウトクラトール(サモジェルジェツ)と捉えていた。しかしながら、現世において戦争を遂行するのは、神ならぬ人間なのであり、この英雄視、理想化の影には、人間の奸智を容赦なく用いる狡猾な戦略が抜け目なく存在していることが、『ステファニトとイフニラト』、『ドラクラについての物語』において確認された。これらの研究成果は、ほかの研究課題(基盤研究(B)「中近世キリスト教社会の『正しさ』をめぐる隠蔽・曖昧・心裡留保」、「中近世キリスト教世界における『包括する暴力-迫害と寛容の二分法を超えて―』」)との関連でまとまった一冊の書籍(三浦清美編訳『中世ロシア奇譚集』松籟社、2026年)における解説「中世ロシアの奇譚的想像力の世界―「イエス・キリストとは何者か」という問いのまえで」(397-496頁)のなかの「『セルビア版アレクサンドロス大王物語』に立ち込めるキリストの影」、「5.『ステファニトとイフニラト』における『奸智』の極大化」の諸節において反映されている。『カザン物語』などの軍記物語の翻訳、比較検討に進みたかったが、『カザン物語』を翻訳する時間が足りなかったのが残念である。