表題番号:2025C-607 日付:2026/02/03
研究課題アメリカ大衆音楽史ー対抗文化とベトナム反戦が生んだニューミュージック
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 国際教養学部 教授 麻生 享志
研究成果概要

対抗文化と反戦運動の関係から出発した本課題において、ベトナム戦争期の現代文化への影響を考察。同時に、アメリカ社会におけるプロテスタント的世界観や後期資本主義との関連を検証することで、近代リベラリズムの完成形ともいえるポストモダニズム思想に内在する諸問題を取り上げることになった。その過程で、研究初期の研究対象であった大衆音楽から視野を広げ、映像文化を課題研究の中心に据えることになった。

とくに映画シリーズ『ワイルド・スピード』に至る大衆映画に見られる、マニ教的世界観に対峙する家族主義を取り上げ、これをアメリカ文学における古典的名作『白鯨』を対置させることで、ベトナム戦争期に形成されたポストモダニズム思想と、そこに内在する資本主義の倫理、現代的ジェンダーや、共同体意識の変容を論じることになった。

研究成果として現在印刷中の論文では、『白鯨』におけるプロテスタント的資本主義と、そこに見られる男性的合理性と世界的ヘゲモニーの可能性を、アメリカ文化・社会に装填されたバグと捉える。また、メルヴィルが描く白鯨に、アメリカ的制度における究極の他者性を見出しつつ、アメリカ的精神がつねに二項対立的な視点から世界を捉えることを、ときにそれが極限を象徴することを示した。一方『ワイルド・スピード』では、金融資本主義と制度的倫理が空洞化したポストモダニズム的金融資本主義世界における、「家族」を核とする関係的倫理を提示した。そこでは非制度的な共同体に見られる、赦し・忠誠・ジェンダーの相補性とその生存の倫理を示される。「鯨から車輪へ」という移行は、支配の倫理から関係の倫理への歴史的転換を描き出している。