表題番号:2025C-582 日付:2026/02/11
研究課題指示対象の見えやすさが指さしに及ぼす影響の実験的検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 人間科学部 講師 門田 圭祐
(連携研究者) 人間科学学術院 人間科学部 准教授 関根和生
研究成果概要
本研究では、日本語話者の指さしの仕方に、指示対象の見えやすさが及ぼす影響を明らかにした。指示行動とは、他者に何かを示す行動であり、文化や地域を超えて広く観察される。指示行動の一つである指示詞は、指示対象の特性に影響される。たとえば、日本語の指示詞にはコ系・ソ系・ア系の3形式があり、これらは話者や聞き手にとっての指示対象の届きやすさ、見えやすさなどの要因に応じて使い分けられる。従来の研究では、指示詞の選択に対して指示対象の特性が及ぼす影響が明らかにされてきた一方、指示詞以外の指示行動に対して当該の要因が及ぼす影響は十分に明らかになっていない。そこで本研究は、指示詞と同様に文化や地域を超えて広くみられる指示行動として指さしに注目し、指さしの仕方に対する指示対象の見えやすさの影響を実験的に検討した。実験参加者は、日本語母語話者60名(平均年齢19.05歳)であった。参加者は、机上に配置された絵付きカードを指さしながら、指示詞を含む依頼発話(例:「この赤いハサミをとってください」)を産出するよう求められた。カード配置に際して、次の3要因を操作した。(1) 話者にとっての指示対象の見え方(見える、部分的に見える、見えない)、(2) 聞き手にとっての指示対象の見え方(見える、部分的に見える、見えない)、(3) 指示対象の位置(話者から25cmから300cmまでを等間隔に区切った12箇所)。各指さしは、「直線」または「非直線」タイプのいずれかに分類された。直線タイプは腕を伸ばして指示対象をまっすぐ指す指さしであり、非直線タイプは腕を伸ばさない、または遮蔽を迂回する軌道で指す指さしとした。直線的指さしと非直線的指さしの比率を分析したところ、話者にとっての見えやすさについて有意な効果が認められた。具体的には、非直線的指さしは、話者から指示対象が見えない条件において、部分的に見える条件・見える条件よりも使われやすかった。一方、聞き手にとっての見えやすさについて、有意な効果は認められなかった。これらの結果は、日本語話者が指示詞の選択においては話者と聞き手の双方にとっての見えやすさを考慮するのに対し、指さしの形態的・運動的特性の調整においては話者側の見えやすさのみが考慮される可能性を示唆している。ただし、聞き手にとっての見え方は参加者間要因として操作されていたため、実験デザイン上の制約により、聞き手側の見えやすさの効果が検出されなかった可能性がある。