| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 人間科学学術院 人間科学部 | 講師 | 金 信慧 |
- 研究成果概要
本研究は、韓国の公的扶助制度である国民基礎生活保障制度の2015年改革を「カスタマイズ改革」と位置づけ、その到達点と課題を検討し、日本の生活保護制度改革への示唆を得ることを目的として実施した。韓国政府は同改革を、給付の個別化を通じて「福祉死角地帯」を縮小する普遍主義的改革として評価している。一方、運動団体からは、貧困対策の後退や新たな「福祉死角地帯」を生み出しているとの批判が示されている。
本研究は、こうした相反する評価に焦点を当て、政府報告書および先行研究の文献分析に加え、関係者への聞き取り調査を通じて改革をめぐる評価構造を分析した。その結果、保護率の上昇や被保護世帯数の増加が確認され、従来制度では支援が届いていなかった層への保障が、一定程度広がった点は、本改革の成果として評価できる。一方で、保護率の上昇は主として住居給付の拡充によるものであり、生計給付や医療給付を含めた生活全体を包括的に保障する制度へと転換したと評価するには慎重な検討が必要であることが明らかとなった。
また、給付の個別化は制度の柔軟性を高めた一方で、給付ごとに申請や審査による手続きの複雑化は、利用者の心理的負担を招いている。この点について、政府側は制度運用の効率化を評価するのに対し、運動団体はスティグマの存続や制度利用への新たな障壁を指摘しており、評価基準の相違が確認された。さらに、社会福祉専担公務員の専門性は強化されたものの、業務量の増大による現場対応の負担が拡大しているという課題も示された。
以上の分析から、本研究は、韓国の「カスタマイズ改革」が一定の成果を示す一方で、生活全体を包括的に保障する制度への転換には限界があり、制度運用面において申請手続きの複雑化やスティグマの課題が残っていることを明らかにした。今後は、制度利用者および現場専門職へのさらなる聞き取り調査を通じて、改革が制度運用や支援実践に及ぼす影響をより具体的に検討していく予定である。