| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 社会科学総合学術院 社会科学部 | 教授 | 赤尾 健一 |
- 研究成果概要
エミッション・ギャップとは、現在計画されている気候変動緩和政策に基づく将来の温室効果ガス排出経路と、国連気候変動枠組条約の下で合意されたパリ協定の1.5度(または2度)目標を達成するために必要とされる効率的な排出経路との間の差を指す。この乖離は、将来世代のために私たちが実際に行おうとしていること(世代間利他性)と、将来世代のために行うべきだと考えること(世代間衡平性)との間のギャップを反映している。
エミッション・ギャップを解消することは、カーボンニュートラル社会の実現にとって極めて重要である。この課題に対処するためには、世代間利他性を強化するとともに、1.5度目標の基礎にある世代間衡平性という倫理的基盤に対する幅広い支持を得ることが求められる。こうした問題意識に基づき、本研究では、特に経済学を中心とする社会科学における世代間利他性および世代間衡平性に関する諸議論を提示し、検討した。
世代間利他性については、従来の経済学が前提とする割引効用に基づく利他性の定式化(Ramsey model)は限定的なモデルに基づいていること、より一般的な利他性の表現は、時間非整合性を惹起する。このため、観察される行動とRamsey modelに基づく厚生分析は、真の利他的選好を反映しない。一方、世代間衡平性について、よく知られているように有限匿名性を満たす平等主義や割引かない功利主義が直観に沿わない結果や論理的な問題を引き起こす。これに対してKen Binmoreの進化的議論によるRawlsの無知のベールによる一般化は、第3の世代間衡平性の定式化を可能とする。また、Parfitの非同一性問題もまた回避できる。また、実践的な観点からの公平性に関する議論として、気候変動問題に関する国際合意は、世代間衡平の倫理として、強い持続可能性(将来世代のために不可欠な自然資本の維持を要請する倫理)を採用していることを指摘した。