表題番号:2025C-458 日付:2026/03/27
研究課題Research on Product Line Strategies Considering Uncertainty
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 准教授 大森 峻一
研究成果概要
近年、技術環境の変化に伴い、企業は従来の延長線上にない新たな製品開発を求められることが増えている。この様な新製品の開発には、これまでと大きく異なる技術・設計・生産の方法が求められることがある。このため、既存のコア技術を有する企業は、これまでの強みを十分に活かすことができず、新興企業の参入により、大きな収益ロスを被る可能性がある。本研究では、この様な新たな構造変化を引き起こす製品をProspect Technology Innovation (PRTI)と呼ぶ。

一方で、自動車業界の様な進化速度(クロックスピード)が緩やかな業界においては、技術および関連インフラは段階的に向上し、それに併せてマーケットも段階的に拡大する傾向にある。このため、技術への投資回収期間が長くなり、また拡張段階における収益確保が困難になる。こうした状況への対応として、PTIの開発と並行して、既存の成熟技術の改善を行う「両利き」の戦略が考えられる。本研究では、この様な既存技術の改善により開発される製品をProven Technology Innovation (PVTI)と呼ぶ。

この様にPRTIとPVTIの両方に対する潜在的なニーズが存在する場合、企業は製品ライン戦略、すなわち、(a)PRTIのみに集中するか、(b)PRTIとPVTIの両方に分散するか、に関する意思決定を適切に行うことが極めて重要である。本研究では前者(a)をシングルパスウェイ戦略、後者(b)をマルチパスウェイ戦略と定義する。この様な製品開発における製品ライン戦略はChen (2001)やKrishnan and Lacourbe (2011)により研究されてきた。本研究では、これらの従来研究に技術の不確実性の影響を考慮に加える。PTIは新技術であるため、実現できる技術レベルに不確実性が存在することが多い。この様な不確実性に加え、顧客嗜好や価格などの要因が複合的に影響する状況において、各要素がどの様な場合にどちらの戦略がより適合するかを判断することは容易ではない。

本研究の目的は、技術の不確実性が存在する状況において、企業が利益最大化を達成するための、新技術開発(PRTI)と既存技術改善(PVTI)の適切な選択に関する意思決定フレームワークを提示し、どの様な条件でどちらの意思決定が望ましいかを明らかにすることである。

本研究では、両戦略を数理的にモデル化し、それぞれに対する最適利益の計算を行った。その結果、①技術に対する確信度が高い場合にはシングルパスウェイ戦略が有利となる、②シングルパスウェイ戦略においてはPRTIに対してより高い従来品質を設計する必要がある、③品質設計においては一定条件下で特定の属性への投資インセンティブが弱まる可能性があり、外部要因の影響が重要となる、ことを明らかにした。

本研究では、技術の不確実性が存在する状況における製品開発の製品ライン戦略についてモデル化と考察を行い、いくつかの重要な知見を導いた。今後は、開発期間の不確実性や競合他社の戦略的相互作用を考慮することで、より現実に近い状況の分析を行う必要がある。