表題番号:2025C-358 日付:2026/03/29
研究課題読むことの学習における発問の構成要素・成立要因の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 菊野 雅之
研究成果概要
本研究は、国語科の「読むこと」の学習において、「発問」の構成要素と成立要因を解明することを目的とする。本報告では、従来の教材研究が抱える課題を社会的背景から指摘し、教育学の知見と融合した研究の方向性を提示する。

現在「多様な読み」という言葉が用いられるが、これは学習者の個性や背景といったコンテキストを捨象した議論である。「読むこと」はテキストの意味内容のみで成立するものではなく、学習者の前提知識との相互作用で構築される。

しかし現実にはテキスト解釈が先行し、学習者という個の文脈を読む「教室空間のテクスト化」への意識は希薄である。この背景には、テキストを正しく読む価値を重視する社会からの要請がある。個人のコンテキストへの想像力は等閑視され、提示されたテキスト自体に権力性が委ねられている。これは学校教育にとどまらず、社会構造の課題である。事実、大学入試等の評価の場ではテキスト理解のみが問われ、結果としてテキスト読解主義が温存され続けている。

この構造は、国文学のテキストクリティークに依拠した教材研究論の限界を示す。作品論理を分析する手法は確立されているが、それを教室で展開し、学習者と結びつける視点が不足している。今後の議論においては、渡邊雅子(2024)が提示した、アメリカ、フランス、イラン、日本における4つの論理を整理し、論理の複数性を明らかにした成果を参照する必要がある。特定の思考枠組みを唯一の正解とするテキスト読解主義を相対化し、教育学における「学習者理解」や「教室運営」の視点と国語科の教材論を融合することが求められる。

結論として、読むことにおける発問は、テキストの構造と、学習者のコンテキストを読む「教室空間のテクスト化」の視点が結びつくことで成立する。本研究は、社会によって温存されたテキスト読解主義を相対化し、論理の複数性を踏まえながら教育学と融合するパラダイムを提示するものである。