| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 文学学術院 文化構想学部 | 助教 | 櫻本 香織 |
- 研究成果概要
『南方録』は江戸元禄期に福岡黒田藩武士の立花実山が編纂した茶の湯の理論書である。その体裁は、千利休が語った茶の湯の教えを、弟子とされる南坊宗啓が聞き書きした形式である。
『南方録』七巻のうち、「覚書」10 の話には、ある人が利休に茶の湯の極意について質問し、利休が「夏ハイカニモ涼シキヤウニ、冬ハイカニモアタ丶カナルヤウニ、炭ハ湯ノワクヤウニ、茶ハ服ノヨキヤウニ」と答えたという問答がある。また、同席していた大徳寺百七世の住持である笑嶺宗訢が、この問答を見て利休の答えは、「カノ諸悪莫作、諸善奉行ト、鳥窠ノコタヘラレタル同然ゾトノ玉ヒシ也」というように、鳥窠禅師が答えた故事と同じことだと言う。これは、先学の指摘では、鳥窠と白居易の有名な問答に準えて作った話であり、その典拠について『指月録』や『五灯会元』だと指摘されている。
本研究では、立花実山が『南方録』「覚書」10 の話に、なぜ鳥窠禅師問答譚を引用したのか、その理由と典拠について検討した。まず、『南方録』「覚書」10にみえる鳥窠禅師問答譚について、大乗寺本『正法眼蔵』と比較した。次に、『南方録』以外の実山著作にみえる鳥窠禅師問答譚を精査し、とりわけ『南方続録 壺中炉談』の「鳥窠の白居易に答へて、諸悪莫作、衆善奉行といはれしたくひ也。三才の童も是を知て、八十の茶人も行ふ事あたハざるべし」という表現は、『正法眼蔵』および『景徳伝灯録』における中国杭州を舞台とする鳥窠禅師と白居易の問答を参照していることを指摘した。また『正法眼蔵』にみえる鳥窠禅師問答譚を調査し、そこでは「諸悪莫作、衆善奉行」の七仏通戒偈を示しつつ、「前仏ヨリ後仏ニ正伝ス。後仏ハ前仏ニ相嗣セリ」というように、師弟間における系譜すなわち師資相承を述べていることを確認した。
これらの検討から、『南方録』における鳥窠禅師問答譚には、『正法眼蔵』の禅があり、そこでの師資相承を重要視していることと、『正法眼蔵』の鳥窠禅師問答譚の典拠は『景徳伝灯録』であることを明らかにした。