表題番号:2025C-331 日付:2026/03/28
研究課題高齢者の戦後復興に関する次世代継承のナラティブの語りによる地域社会の継続的学習
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 教授 久保田 治助
研究成果概要
本研究は、鹿児島県南種子町長谷地区における戦後開拓事業を事例として、南方引揚者を中心とした高齢者の「語り」が持つ教育的意義を多角的に検討したものである。
長谷地区には1946年以降、パラオ・サイパン・テニアン等の南洋諸島からの引揚者を第一陣として172名が入植した。従来の戦後開拓研究では満州・樺太等からの引揚者に焦点が当てられることが多く、南方引揚者による開拓事業の社会教育学的研究は限定的であった。本研究は、ライフヒストリーインタビューおよび文献・史料調査を通じて、この研究上の空白を埋めることを試みた。
分析の結果、以下の三点が明らかになった。第一に、高齢者が困難な戦後復興体験を語ることは、過去の体験を統合的に意味づけ直し、自己のアイデンティティを確認する内省的学習の機会となっている。第二に、南方引揚者の復興体験の語りは、段階的復興の知恵、共同体形成の方法、文化的復興の意義など、現代の災害復興や地域再生に活用しうる学習資源としての価値を有している。第三に、高齢者の語りは若い世代の歴史認識の深化、地域アイデンティティの継承、問題解決能力の育成において教育的効果をもたらす可能性がある。
本研究の意義は、従来の高齢者教育が高齢者を教育サービスの受益者として捉える傾向にあったのに対し、高齢者を社会全体の学習を促進する教育資源として位置づけ直した点にある。