表題番号:2025C-322 日付:2026/04/06
研究課題恋愛感情と互酬性に関する日仏比較研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 教授 國弘 暁子
研究成果概要
本研究は、現代消費社会における恋愛のかたちについて、日仏の比較研究を行うことを目的とする。具体的には、フランス語「クラッシュ」と日本語「推し」をキーワードとして、感情とそれに伴う言動の分析を行う。フランス語の「クラッシュ」は、もとを辿れば米俗語「クラッシュ(crush ときめき、恋心)」がそのままフランスに輸入されたものだが、今では若者の日常語と化している。若者の言動に注目する社会学者Detrez Christine教授(ENS de Lyon)によれば、特に若い女性は自分の「クラッシュ」に相応しい自分になろうと、「クラッシュ」に関するSNS情報に依存した消費活動に走るという。一方、日本では米俗語の「クラッシュ」が直輸入されることはなかったが、特定の人物を自分の「推し」と表現する現象は見られ、また、フランスと同様に、「推し」のために消費活動をする人も多い。昨今では、自分のイチ「推し」のホストに貢ぐことが社会問題と化しており、風俗営業法も改正されるにまで至っているが、しかし、人間の感情問題として取り上げられることはない。過剰な消費行動と人間の感情、そして二者間の互酬性について、日仏の社会現象を同時に分析することを通じて、一体何が問題なのかを考察する。  

2025年10月にDetrez教授は来日を予定していたが、その予定が延期となってしまい、日仏の現象を比較する作業も次年度以降に延期となった。そのため、今年度は、日本におけるホスト男性とホストに貢ぐ女性の問題に限定して調査を進めることにした。ホストクラブについて、まずは、その悪質性を追求するメディア記事を収集する作業から始めたが、その過程で、ホストに貢ぐために性産業で働く女性をサポートする特定非営利活動法人の存在を知ることになる。その団体は、ホスト男性に依存する女性だけを相手にするのではなく、性風俗業界で働く人々が抱える経済的、心理的な悩みの相談を受けて、適切なサポートが得られるための支援をする相談事業を10年以上継続している。弁護士やソーシャルワーカーのスタッフと共に、私も一ボランティアとして、相談事業に間接的に関与させていただいた。その時の私の経験や、スタッフらによる相談経験の話からすると、他人から褒められたいという欲求は、性風俗業界に人々を引きつける要因の一つになっていると考えられる。例えば、精神疾患等を理由に昼職でうまく立ち回れないと感じている人が、夜職では可愛いなどと褒められて、そこに居心地の良さを感じて性風俗業界から離れられなくなるというケースである。さらに、褒められたいという欲求は、性風俗従事者たちをホストクラブに向かわせる原因にもなっている。風俗嬢という特殊なレッテルを貼られる性風俗従事者、そして、そこに含まれるホス狂と呼ばれる人々とは、現代社会の歪みから、必然的に生み出されている側面もあるように考えられてならない。