表題番号:2025C-321 日付:2026/01/17
研究課題美と道徳性の関係の問題を中心とするカント批判哲学の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 教授 小林 信之
研究成果概要
 カント批判哲学の体系性や諸能力間の体系連関について考えることは、現象と物自体、感性界と叡智界、自然と自由の架橋の問題を考えることであり、両者の媒介の可能性を問うことである。そのさいポイントになるのは、純粋能力としての判断力の問題である。悟性が概念の能力であり、理性が目的の能力であるのにたいして、適用の能力である判断力は、特殊なもの(たとえば感性界にある個物)を普遍(概念や理念)に包摂する働きであり、それ自体媒介的な機能を有している。それゆえカントが体系連関ないし架橋の問題の解決のために、判断力に着目し、判断力の批判をくわだてたことは、容易に理解できる。だが、その場合、とりわけなぜ感性的(ästhetisch)な、つまり主観的感情にかかわる判断力が批判の中心課題として主題化されたのかという問いは、あらかじめ論究すべき問題である。美を、客観的な認識の対象としてではなく、主観的感情にかかわる評価的判断の対象としてとらえるのがカントの基本方針であるが、そのさい、判断力一般を論じた『判断力批判』のなかで、なぜそうした特殊な判断作用が主題化される必要があったのかが問われねばならない。
 こうした問題を考えるために本研究は、美と道徳性の関係が持つ意味に着目し、そこからカントの『判断力批判』の解釈を展開した。つまり趣味判断が、規定的・論理的・概念的な認識判断ではなく、だれもがそのように判断す「べき」だという理念的要求をふくんだ判断だとすれば、同じように規範的要求にもとづく道徳判断との関係が当然問われねばならず、さらに趣味が道徳に還元されるのかどうか、あるいは趣味(いいかえれば美の感情)にどこまで自律性をみとめることができるのかが問われねばならない。以上のような問題意識のもとに本研究は、カント批判哲学の内的論理を解明すべく努めた。