| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 文学学術院 文化構想学部 | 教授 | 渡辺 愛子 |
- 研究成果概要
本研究課題は、イギリス20世紀の作家ジョージ・オーウェルが最晩年に著した『一九八四年』が、冷戦期ソ連共産主義圏においていかなる政治的・文化的役割を担ったかを解明しようとするものである。本作はフィクションでありながら、現実の政治体制や社会構造と鋭く共鳴し、創作と実話のあいだに複雑なインターテクスチュアリティ(テクストと現実が相互に参照し合い、意味を生成し合う関係)を生み出していたと考えられる。
とりわけ本研究が注目するのは、東側陣営における読者層、なかでも本書の地下出版(いわゆる「サミズダート」)に命がけで尽力した知識人たちの動向である。彼らはいかなる信念と覚悟のもとで、体制によって禁書とされた『一九八四年』を入手し、熟読し、さらにそれを同志たちへと普及させようとしたのか。検閲と弾圧のもとで秘密裏に流通したこのテクストは、読者にとって単なる文学作品ではなく、体制への抵抗意識を鼓舞し、連帯を生み出すための思想的武器でもあったはずである。
今回、この複雑なインターテクスチュアリティを考察するうえで注目したのが、オーウェルの同時代作家で詩人でもあるスティーブン・スペンダーである。左翼知識人としてともに知られた彼らは、若い時代、作風もイデオロギー的立ち位置も異なりながら、共鳴し合う部分も見受けられる。とりわけオーウェルの死後、スペンダーはIndex on Censorshipという英文機関誌を発行することで、東側陣営で弾圧される人々の声を全世界に知らしめることに寄与した。この機関誌には、『一九八四年』が先述の仮説どおりの役割を果たした事例が複数示されていることから、スペンダーが(はからずも)インターテクスチュアリティという言説構築に参与したことが明らかとなった。
この研究成果は当初国内発表する予定であったが、現在、国際ジャーナルに投稿すべく、英語にて推敲中である。