表題番号:2025C-306
日付:2026/04/02
研究課題企業の無過失責任の可能性とそのための比較法的検討――新たな責任原理の確立をめざして――
| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 法学学術院 法学部 | 助手 | 渡部 航生 |
- 研究成果概要
- 本研究課題は、次のような問題意識に端を発するものである。すなわち、従来の企業責任論が、事業活動全体が企業による統制に服していることを前提に展開された一方で、人々の事業活動への関わりが多様化している現代社会においては、事業の構成員が必ずしも企業による統制に服しているわけではないため、こうした帰責構造が妥当しない場面が生じてくる。この点、確かに、わが国においては過失責任及び過失論が判例・学説上発展されてきたが、しかし、過失責任が義務違反という非難に基づく帰責枠組みである以上、これによる規律には機能的限界がある。そこで、責任主体自身の過失を問わない帰責の枠組みである使用者責任(民法715条)の適用可能性を検討した。そして、本研究では、(使用者責任もその一事例であるところの)「他人の行為による責任」の枠組みが拡張されているフランス法に着目し、検討を行った。その結果、この帰責枠組みは、人的危険源のリスクを当該危険源に対して支配権限を有する者に帰せしめるものであり、そしてこのリスクの帰せしめは、責任主体(権限保有者)に付保可能性があることによって(実質的に)正当化され得ることが明らかになった。企業責任との関係では、企業は事業の編成及び管理・運営に係る決定権限を保持し、事業活動に組み込まれた各人は企業による決定に適合する形で各自の担当する業務を遂行するのであるから、その決定に起因するリスクについては、計算可能な企業に負担させるのが公平であり、このリスクの帰せしめは、他人の行為による責任としての使用者責任によって実現される。また、以上の検討から、付保可能性の観点から責任主体を確定しその者に帰責する可能性が示され、これは、リスク社会であるとともに、リスク源と多様な主体が多様な関わりを有している現代社会におけるあり得べき不法行為法上の責任主体決定メカニズムとして、一考に値するものと考えられる。