| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 法学学術院 法学部 | 教授 | 辻 リン |
- 研究成果概要
本年度は、研究課題に基づく段階的研究の一環として、梁祝(梁山伯と祝英台)物語を一つの具体的事例として取り上げ、主に宝巻・弾詞・歌仔冊などの説唱文芸資料を手がかりに、その変容構造と地域的展開の基層の検討を行った。本研究は、中国ロマンティシズムの代表作として知られる梁祝物語が、台湾においていかなる受容と変容を遂げたのかを、媒体史・民間芸能史・植民地文化政策史の観点から総合的に解明することを目的とする。
まず、中国大陸における梁祝像について、宝巻・弾詞・説唱文学を中心に検討した結果、「節烈」「殉情」を核とする宗教性・教化性の強い悲恋譚として定着していたことを確認した。さらに説唱文芸においては、「化蝶」に加えて「還魂」「昇仙」など多様な結末類型が存在し、物語が高い可塑性を有していたことを明らかにした。次に、これら説唱文芸の系譜を継承する閩南系歌仔冊に着目し、台湾における受容過程を検討した。その結果、木刻本から石印・活版本への出版媒体の発展に伴い、梁祝物語は大幅に改変され、祝英台の恋愛主体化、台湾民俗の導入、長編化と娯楽化が進展したことが確認された。さらに都市歌仔戲の成立により、台湾独自の情緒的場面が確立し、梁祝は台湾民衆文化における恋愛劇として定着した。一方、1937年以降の皇民化政策は、台湾語表現の抑圧や娯楽の健全化を通じて梁祝物語の表象に再編をもたらした。卑猥・戯弄表現の削除や道徳性の強調により、物語は教化的性格を強め、日本語版『杭州記』はその具体的事例として位置づけられる。
以上より、本年度の検討により、梁祝物語が「大陸的悲恋譚の移入」「歌仔冊・歌仔戲による台湾化」「皇民化政策下の日本語化」という三段階を経て展開したことが明らかとなった。本成果は、宝巻をはじめとする説唱文芸の流伝と変容の実態を、具体的作品分析を通じて補足するものであり、今後は引き続き、作品の詳細分析を通じて、通俗文芸の変遷と相互作用の解明をさらに進める予定である。