表題番号:2025C-243 日付:2025/11/07
研究課題タイ国科学教育にみられるデータサイエンスの導入
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 中島 康
(連携研究者) カセサート大学 准教授 チャトリー・ファイクハムタ
(連携研究者) シーナカリンウィロート大学オンガラック教育開発研究所デモンストレーション学校 副校長 スパウイット・カニジンダ
研究成果概要
 タイ王国では、王家が科学教育や教育の情報化に強い関心を示してきた。チュラポーン王女は、全寮制の理数系高等学校であるマヒドン・ウィッタヤヌソン高校の設立に関わり、自身の名を冠したチュラポーン王女サイエンスハイスクール(全国12校)や大学院大学の創設にも寄与している。また、シリントーン王女は「農村学校向けITプロジェクト」を推進し、「ITプリンセス」として知られる。このような王家の強いリーダーシップのもと、教育省はSTEM教育の地域的中核を目指し、2017年に科学・技術教育カリキュラムを改訂した。現在、同国の中等教育段階ではIoTやAIを扱う課外活動やビジネスコンテストが盛んに行われ、国際的な生徒研究発表会(例:タイ国日本学生ICTフェア)も開催されている。こうした動向は、同国の科学教育においてITやデータサイエンスが急速に導入・発展していることを示している。
 本研究は、タイ王国におけるSTEM教育および科学教育のデータサイエンス化の基盤を明らかにすることを目的とし、同国小学校のテクノロジー教育を分析したものである。調査の結果、小学校段階では「デザインとテクノロジー」は扱われず、「コンピュテーショナル・サイエンス」のみが教授対象であることが明らかとなった。さらに、カリキュラムに示された教育目標(インディケーター)を分析したところ、米国CSTAコンピュータサイエンス基準(CSTA基準)との間に一定の類似性が確認された。
 また、教育省発行の事実上の公式教科書をCSTA基準の5つのコンセプト・カテゴリーに基づいて分析した結果、学習目標の対応割合は、コンピューティング・システムズ7%、ネットワークとインターネット7%、データ分析17%、アルゴリズムとプログラミング44%、コンピューティングの影響26%であった。これらはCSTA基準における各コンセプトの割合と類似した傾向を示している。
 以上から、タイ王国小学校のテクノロジー教育はCSTA基準と整合的であり、特にコンピュテーショナル・シンキングを通じた問題解決能力の育成に重点を置く構成となっている。すなわち、同国の科学教育はデータサイエンス教育の基礎をなす内容をすでに内包しているといえる。