表題番号:2025C-241 日付:2026/04/02
研究課題ヒルベルト保型形式からヒルベルト-ヤコビ形式への持ち上げ写像の具体的構成
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 坂田 裕
(連携研究者) 埼玉大学 名誉教授 小嶋 久祉
研究成果概要
岩澤理論に代表される代数体上の整数論において,総実代数体上のヒルベルト保型形式は,L関数の特殊値やガロア表現との関連から必要不可欠な研究対象である.近年,このヒルベルト保型形式を,数論幾何学で重要な役割を果たす多変数ヒルベルト-ジーゲル保型形式へ持ち上げる写像の構成について,各分野で精力的な研究が進められている.中でも保型表現論の枠組みを用いた「池田-山名対応」は,理論的に極めて洗練された持ち上げとして知られ,広範な分野への波及効果が期待されている.しかし,この対応は局所成分の解析に基づく抽象的な構成であるため,具体的な数論的現象への適用や数値計算においては,より直接的かつ明示的な記述が求められている.

本研究では,この課題に対して,総実代数体上のヒルベルト保型形式から同体上のヒルベルト-ヤコビ形式への持ち上げ写像を,フーリエ係数を用いて明示的に構成することを目標とした.ヒルベルト-ヤコビ形式は,ヒルベルト保型形式とヒルベルト‐ジーゲル保型形式を繋ぐ重要な中間層であり,これを仲介すれば池田-山名対応をフーリエ係数の言葉で具体的に記述出来る様になる.これにより,理論の汎用性を飛躍的に高めることが期待できよう.
この研究成果は次の通りである.まず,総実代数体の類数を1と仮定し,その上の格子構造を決定する諸条件を,(限定的ではあるものの)先行研究を基に定義した.その上で,当該体上のヒルベルト保型形式に作用するアトキン-レーナー作用素を明示的に定義した.次に,この作用素を施したヒルベルト保型形式に,先の格子構造から定まるヤコビテータ関数を乗じることでヒルベルト-ヤコビ形式を構成した.本成果は,複雑な持ち上げ理論に対し,具体的なフーリエ展開のレベルでアクセスする道筋を付けるものであり,今後の数論幾何学における解析的・計算的側面の進展に寄与するものといえよう.