表題番号:2025C-230
日付:2025/11/10
研究課題厄介な問題に挑戦する新しい「対話の場」のデザインに関する研究
| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 国際学術院 大学院アジア太平洋研究科 | 教授 | 松岡 俊二 |
| (連携研究者) | 国立環境研究所 | 主任研究員 | 戸川拓哉 |
- 研究成果概要
近年、多くの政策分野において、市民参加や熟議による意思決定の重要性が強調されている。特に、原発再稼働、災害復興、気候変動対策など複雑で専門性の高い領域においては、政府や専門家によるトップダウンの意思決定に対する社会的信頼の低下を背景に、市民参加が政策の正統性を支える手段として導入されつつある。その際、市民の「自己決定能力」や「合意形成への能動的関与」は、民主主義の根幹として称揚され、政治的・倫理的価値を持つものとされる。しかし、このような実践(政策の執行)と切り離された議論のみへの参加と自己決定への過度な期待が、実は逆説的な機能を果たしている可能性があることには十分な注意が払われていない。
本研究ではこのような「厄介な課題」として問題構造を理論的に検討した上で、実際の政策対話の事例として寿都町の高レベル放射性廃棄物文献調査受け入れを巡る政策対話、さっぽろ気候市民会議2020、東日本大震災後の女川町復興まちづくりデザイン会議を取り上げ、実証的な分析を試みた。いずれの事例においても、市民参加が民主的正統性の形式的根拠として活用される一方で、専門家や行政の制度的責任が不可視化される傾向が見られた。
さらに、こうした熟議民主主義の限界を乗り越えるための代替的な視座として、関連研究をレビューし、特にアネマリー・モルの「ケアのロジック」に注目した。モルが提唱するケアのロジックは、自己決定を至上価値とする「選択のロジック」ではなく、関係性・実践性・継続性を重視する枠組みである。ケアの視点から、政策対話のあり方を再構築する可能性を探った。その結果、政策対話を「選ばせる」装置としてではなく、「共に関わり続ける」場へと変換することの重要性が明らかになった。