表題番号:2025C-186 日付:2026/03/24
研究課題東京における温帯性感染症媒介蚊の個体群動態予測
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 人間科学部 教授 太田 俊二
研究成果概要
気候変動にともない生物の挙動は変化しており、感染症媒介蚊も例外ではない。蚊の個体群動態の変化は感染症の拡大につながる可能性があるため、防除や感染リスク評価の観点から将来の個体群動態の予測が求められている。そこで本研究では、研究事例の少ない温帯性の蚊であるアカイエカ(Culex pipiens)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)を対象に、一般気象要素から日々の個体数を推定するプロセスベースモデルを開発した。蚊の生育段階を考慮すると、降水の影響を受ける水環境が重要であるものの、将来の入力データとして用いる日降水量には大きな不確実性が存在する。このため、蚊の個体群動態の将来予測には課題が残る。そこで本研究では、降水パターンの不確実性を考慮することを目的として、複数の降水パターンを想定し、ダウンスケーリングを行ったうえで東京における2種の蚊の個体群動態を予測した。
まず将来予測に先立ち、降水の影響のみを評価するため、降水以外の気象条件をベースラインとして統一し、各種に対する降水の影響を明らかにする感度実験を実施した。次に、気候モデル Model for Interdisciplinary Research on Climate version 6 の予測値を用い、Shared Socioeconomic Pathway(SSP)1–2.6およびSSP5–8.5における2081~2099年の個体群動態を、それぞれ4通りの降水パターンのもとで予測した。
その結果、アカイエカでは降水頻度の増加にともなって個体数が減少する一方、ヒトスジシマカでは降水パターンの違いによる影響はほとんどみられなかった。また21世紀末には、放射強制力が強いシナリオほどアカイエカの個体数は減少し、ヒトスジシマカの個体数は増加すると予測された。以上の結果から、将来の個体群動態を予測する際には降水の不確実性を考慮することが重要であることが示された。本手法は、感染症媒介蚊の個体群動態や媒介感染症の分布予測の高度化に寄与すると期待される。