表題番号:2025C-130 日付:2026/04/03
研究課題晶析工学による痛風の機構解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 講師 小堀 深
研究成果概要
 痛風は、体液中の尿酸濃度が溶解度を超えて過飽和となり、関節滑膜や周囲組織において尿酸ナトリウム一水和物(MSU)が結晶化・析出することによる。これに対し、クエン酸やL-アスコルビン酸などの有機酸は、尿アルカリ化作用や尿酸排泄促進作用を有することが報告されている。しかしながら、これらの成分が過飽和溶液中における結晶核形成や結晶成長という「物理化学的なプロセス」に対し、直接的にどのような影響を及ぼすかについては不明な点が多い。特に、尿酸の溶解度や析出する結晶の固相(尿酸あるいはMSU)は溶液のpH環境に強く依存するため、生体内環境を模した広範な条件下でその作用機序を系統的に解析した例は乏しいのが現状である。
 本研究では、痛風モデル系を構築し、高速液体クロマトグラフィーを用いて、過飽和尿酸溶液からのMSU結晶の析出・溶解挙動を経時的に定量解析することを目的とした。 具体的には、生体内の関節液で考えられる比較的広範囲な酸性~弱アルカリ性(pH5.5–8.0)条件で、クエン酸およびL-アスコルビン酸を添加した際の尿酸濃度推移を追跡することで、「MSUがどのような条件で析出し、一度析出したMSUをどの程度再溶解させうるか」を評価した。クエン酸添加系では、酸性-弱酸性域ではMSU溶解度が上昇し析出が抑制される一方、pH7以上では共通イオン効果やイオン強度の増加により逆に析出が促進されるなど、pHに応じて阻害・促進が逆転する二面的な挙動を示した。L-アスコルビン酸添加系でも、酸性側ではMSU溶解度の増大と析出抑制が見られ、中性-アルカリ側では添加濃度によりMSU析出挙動が変化し、共存イオン効果と結晶成長阻害が競合していることが示唆された。クエン酸およびL-アスコルビン酸は、特に酸性-弱酸性条件下でMSU溶解度を高め、臨界pH域での析出を緩和する「溶解度修飾因子/析出阻害因子」として機能しうることが明らかとなった。