表題番号:2025C-126 日付:2026/03/28
研究課題多様化する社会と文学作品の受容の変化
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 教授 西口 拓子
研究成果概要

本年度は、特別研究期間でドイツのカッセル大学に滞在していたため効率的に調査を進めることができた。ドイツ語の表記にも時代の思潮が色濃く反映し、現在では男性・女性のみならず性の多様性にも配慮した表現が主流となっており、10年前に執筆した論文もそのままの形で公刊することが難しいほどである。本研究でテーマとしたのは、多様化していく社会に合わせた、他者への配慮が文学作品にどのように反映しているかである。とりわけ、児童文学には、そうした配慮が如実に現れる。古典的名作さえ、著作権者の了承を得た上で表現が変えられている。これに関しては、研究書で概要を把握することはできるが、加筆変更の意図を正確に読み取るためには、原典を確認する必要がある。なぜなら、書き換えた箇所が新版には明示されないからである。差別的な単語を旧版から引用することは、余計な注目を集めることになりかねず、子どもたちがその言葉に関心を寄せてしまうことも憂慮される。また、改変される前の原典を入手することが思った以上に困難であった。図書館(大学図書館だけでなく、市立の図書館も調査した)では、貸出可能な本はすべて書き換えられた後の版だからである。インターネット上の古書店においては、刊行年の明記が不正確なこともあり、調査にはあまり役立たないことも多い。しかしながら、実際に古書店の店舗を訪問し、必要とする資料を集めることができた。これまでの成果は、202511月のオーストラリアにおける独文学会での発表でまとめた。書き換えられた新しい版にも、いまだ問題となる表現が含まれていることなど、多くの人から意見が出され、多彩な角度からの議論を行うことができた。誰もが知る名作が、知らぬ間に更新されており、親子ほど年の離れた人たちが、異なる版でその本に親しんでいることがある。それらがなぜ書き換えられたのかは、現代社会にとって非常に重要なことである。