表題番号:2025C-119 日付:2025/11/01
研究課題鋼材腐食の生じた劣化PC部材の構造性能評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 教授 秋山 充良
研究成果概要
 この研究では,まず,X線およびデジタル画像処理技術を新たに開発し,PC梁内部に埋設された鋼より線の腐食を非破壊で可視化・定量化した.本手法により,より線全体および6本の外側ワイヤの腐食進展を空間的に把握でき,平均鋼材重量減少率の推定誤差は3%未満であった.実験では,1本のより線を配置した8体のPC梁を製作し,プレストレスレベルを降伏強度の30%と60%の2段階,腐食レベルを0~10%の3段階に設定した.腐食は3%NaCl溶液中で定電流法により加速し,各段階でX線撮影を行った.腐食ひび割れ幅は画像解析により5mm間 隔で測定し,梁中央部で四点曲げ試験を実施して構造性能を評価した.
 結果として,より線の腐食は著しい空間的ばらつきを示し,局所的な最大鋼材重量減少率は平均値の2~3倍に達した.この局所腐食が曲げ破壊時のワイヤ破断を支配し,平均腐食率のみに基づく評価では耐力を過大に推定することが明らかになった.また,RC梁に比べPC梁では腐食分布の変動係数が大きく,プレストレスが高いほど局所的な腐食のピークが増大する傾向が見られた.プレストレス力が横方向の引張ひずみを増大させるため,腐食ひび割れ幅も拡大した.
 腐食レベルが3%未満では健全梁とほぼ同等の耐力を示し,上部コンクリートの圧壊が主破壊モードとなった.一方,腐食が5%を超えると複数のワイヤが破断し,耐力およびたわみ能力が顕著に低下した.プレストレスを60%に高めても最大荷重の増加はほとんどなく,むしろ変形能力が低下した.RC梁との比較では,PC梁はより線の7本構成による局所破断の影響を強く受け,腐食断面損失に対して著しく敏感であることが確認された.
 得られた一連の成果は,腐食したPC構造物の安全性評価や維持管理方針の高度化に資するものであり,今後はダクト付き多より線部材への適用や数理モデルとの統合的解析が期待される.