表題番号:2025C-094 日付:2026/04/02
研究課題湿・乾式紡績法にて成形した高強度CNT繊維の強度発現機構
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 基幹理工学部 教授 川田 宏之
(連携研究者) 基幹理工学部 助手 伊藤拓海
研究成果概要
本研究課題では,高強度CNT繊維の強度発現機構の解明を目的として,湿式紡糸により得られたCNT糸の構造と力学特性の関係,ならびに分子動力学計算による荷重伝達機構の解析を行った.実験的には,溶液紡糸プロセスの最適化により,配向係数0.9超の高配向・高緻密充填・低空隙な内部構造を有するCNT糸を成形し,引張強度2 GPa以上,弾性率200 GPa超の機械特性を達成した.また,延伸比の増大に伴って配向は向上するものの,配向係数が0.9程度に達すると強度向上は飽和する傾向が認められた.このことから,高配向・低空隙構造の達成後は,CNT間の荷重伝達効率が残る強度支配因子として重要になると考えられる.すなわち,配向・緻密化の推進のみでは強度向上に限界があり,より本質的にはCNTのアスペクト比と内部欠陥量が強度発現を律速する.実際に,CSAを用いた溶液紡糸CNT糸に関する既報と本研究結果を合わせて整理すると,比強度はアスペクト比と相関を示し,高配向・低空隙構造を維持しつつCNTを長尺化することの重要性が示唆された.さらに,繊維内部に残留するスルホン化物が欠陥として強度発現を阻害しており,その除去処理により機械特性が改善したことから,内部欠陥の低減も高強度化の鍵であることが確認された.数値解析に関しては,粗視化分子動力学モデルを用いてCNT引抜き解析およびCNTバンドル引張解析を実施した.その結果,本モデルはCNT間の界面せん断挙動を妥当に再現し,アスペクト比の増大に伴ってバンドル強度が向上する傾向を示した.内部応力分布の解析からは,アスペクト比が大きいほどCNT端部近傍のせん断遅れ領域の相対割合が低下し,有効な荷重負担領域が拡大することが確認された.以上より,高強度CNT繊維の実現には,高配向・高緻密構造の形成に加え,CNTの長尺化,内部欠陥の低減,および界面での荷重伝達効率の向上が不可欠であることを示した.