表題番号:2025C-055 日付:2026/03/31
研究課題漱石文学における主語・主体に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 石原 千秋
研究成果概要
 夏目漱石『行人』は、長野二郎の「手記」と考えていい。したがって、語りの主体はいわゆる「語り手」ではなく、長野二郎である。後半のHさんの手紙を書いたのはHさんだが、それを自分の「手記」に「引用」したのも長野二郎である。すなわち、『行人』の語りを統御しているのは長野二郎である。
 長野二郎は、長野の家を出て一人暮らしを始めるが、まさにそのことによって兄の長野一郎を「家族」から放逐する。一方、Hさんの手紙では長野一郎は長野家の家族として書かれる。つまり、長野二郎は長野一郎を「家族」」でもあり、「家族」ではないかのように書いているのである。長野一郎を、この絶対矛盾的自己同一に陥れたのが長野二郎の悪意ある語り、作品に溢れる「自分」という一人称だった。
 『行人』は、行動する一人称を書いた作品だった。「語り手は行動する」のである。