表題番号:2025C-046
日付:2026/02/03
研究課題日本と東アジアにおける宣教美術の展開―下音羽(大阪)の 厨子入り象牙彫りキリスト磔刑像を中心に
| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 文学学術院 文学部 | 教授 | 児嶋 由枝 |
- 研究成果概要
大阪府の千提寺から下音羽地域にかけては、著名なキリシタン遺品が多く伝わっている。なかでも下音羽に伝来した厨子入り象牙彫りキリスト磔刑像は、その精緻な造形と象牙特有の光沢を伴う仕上げから、日本国内に現存するキリシタン美術の中でも特に完成度の高い作品として知られてきた。しかし、これまでの研究では「アジア製」とのみ言及されるにとどまり、具体的な制作地や職人の系統、さらには流通経路についてはほとんど解明が進んでいなかった。このような状況を受けて、本研究では作品の材質的特徴と様式的特性を精査し、可能な限り制作環境の復元を試みたものである。
まず、本作品を委託保管している茨木市立文化財資料館を訪問し、厨子および彫刻本体の詳細な観察を行った。寸法計測、材質鑑定等を実施した結果、厨子の木材は東南アジア産の硬木である可能性が高いことが判明した。また、彫刻部分には象牙の層構造を活かした陰影表現や、衣文線の流麗な処理など、フィリピン・マニラ周辺で活動していた中華系職人による技法との共通点が確認された。これらの観察結果をもとに、制作時期は16世紀末から17世紀前半に位置づけられると考えられる。さらに、仮説の検証を目的として、現地調査をフィリピンで実施した。マニラ市内のサン・アウグスティン修道院博物館、イントラムロス博物館、サント・トマス大学博物館、および国立美術館に所蔵される象牙彫刻作品を精査し、様式的比較を行った。
以上の比較調査により、本作品がマニラ周辺で制作された可能性が極めて高いことが明らかとなった。今後は、マニラの工房記録や宣教師書簡など、当時の文献資料を照合し、制作に関与した職人層や流通ネットワークの実態を解明する必要がある。