表題番号:2025C-038
日付:2025/10/12
研究課題ノルウェーの女性犯罪者に対する処遇についての検討
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 文学学術院 文学部 | 教授 | 藤野 京子 |
- 研究成果概要
- 本研究は、社会福祉制度が充実しているノルウェーにおける女性犯罪者の処遇実態を調査し、我が国の矯正処遇への示唆を得ることを目的として実施した。ノルウェーでは「インポートモデル」に基づき、刑務官のみならず教育機関、医療機関、地方自治体など多様な機関が矯正に関与し、犯罪者を社会から孤立させない体制を構築している。矯正局の管理職は、男性とは異なるニーズをもつ女性犯罪者に対して、施設設計などハード面を含めた特別な配慮とそれに対応できる職員研修の重要性を強調していた。現地調査では、低セキュリティ施設BredtveitおよびRavneberget、高セキュリティ施設Telemarkを訪問した。いずれの施設も被収容者は定員を下回っていたが、電子監視を活用するなどして、再犯防止を図りながらできるだけ社会内処遇を適用しようとしているとのことであった。いずれの施設でも教育・就労機会を重視し、個々のニーズに応じた柔軟な処遇が行われていた。女性特有の課題に対応するVINNプログラムは、現在そのままの形では実施されていないが、働きかけの中にその内容のエッセンスを取り入れていた。刑務官は威圧的でなく自然体で接し、信頼関係を基盤とした支援を重視していた。精神疾患や薬物問題を抱える者も多いが、精神保健専門職やソーシャルワーカーが関与し、再犯率は20%弱に抑えられている。このほか、女性に限定されない取り組みであるが、修復的司法の実践も注目に値する。修復的司法の会議の進行を担う調停役を、研修を受けた一般市民ボランティアが行っている場合も少なくなく、地域全体で犯罪者の社会的再統合を支える仕組みが形成されている。総じて、ノルウェーの矯正は福祉的支援を基盤とし、犯罪者を社会の一員として包摂する姿勢に貫かれている。我が国においても、刑罰中心の発想を超え、社会的支援としての矯正処遇を再構築する視点が求められる。