表題番号:2025C-004
日付:2025/11/05
研究課題米国におけるマイノリティ集団(ヒスパニック系・アジア系)の政治意識・政治行動
| 研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
|---|---|---|---|
| (代表者) | 政治経済学術院 政治経済学部 | 准教授 | 高橋 百合子 |
- 研究成果概要
- 本研究課題は、在米メキシコ移民の政治的社会化の過程が、移民第1、第2、第3世代間でどのように異なるのか、独自のサーベイを実施することによって明らかにする。米国におけるラテン系移民の人口増加が顕著であり、同国における最大のエスニック・マイノリティ集団となっている。ラテン系移民の中でもメキシコ出身者がその半数以上を占め、米国内で合計して4千万人を超える人口がメキシコにルーツを持つ。しかし、メキシコ生まれの移民第1世代、米国生まれでメキシコ国籍の親を持つ移民第3世代、自身も親も米国生まれの移民第3世代の間で、移民としてのアイデンティティ、そしてそれが政治的社会化へ与える影響については、体系的に研究がなされてこなかった。この問いに答えるため、昨年度の特定課題では、メキシコ系移民第2世代の若者を対象にシカゴ市でフォーカス・グループ調査を実施した。今年度の申請課題では、その分析結果を参考に、第1世代、第2世代、第3世代のメキシコ系移民に対してサーベイを実施し、政治的社会化の世代間比較を実施することを試みた。今年度は、これまで継続的に研究協力をいただいているデュポール大学のJoe Tafoya先生を招聘し、第2期トランプ政権下で移民取り締まり政策が一層厳格化する中、若年層を中心としたラテン系(とりわけメキシコ系)移民による抗議運動の高まりについてご講演いただいた。また、シカゴ在住の区長や移民の権利擁護活動家への聞き取り調査を行った結果、当初の予想に反して、移民第2世代・第3世代の間でラテン系移民としてのアイデンティティが強化され、世代間の差異が縮小している傾向が明らかとなった。その背景としては、以下の2点が指摘できる。(1)移民局による直接的な取り締まりの対象は主として第1世代の非正規移民であるものの、正規移民や米国籍を有する第2・第3世代のラテン系住民が誤って拘留される事例が多発していること。(2)第2・第3世代の米国籍を持つラテン系移民にとっても、家族や友人が摘発・拘留・強制送還の対象となることで、移民取り締まりが身近で切実な問題として認識されるようになったこと。今後の課題としては、こうした現象が一時的なものにとどまるのか、あるいはラテン系住民の政治的アイデンティティに長期的かつ構造的な影響を及ぼすのかを、実証的に検証する必要がある。