表題番号:2024R-063 日付:2025/04/04
研究課題遷移金属触媒による環化異性化反応と関連反応の開発および活用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 教授 中田 雅久
(連携研究者) 先進理工学研究科化学・生命化学専攻 修士課程学生 熊澤日悠
研究成果概要

革新的な骨格構造を導く炭素-炭素結合形成反応は、有機化合物の合成において重要であり、環境負荷の少ない合成法の開発は、世界が持続可能な社会を目指す上で不可欠である。構造異性体を生成する異性化反応は、理論的に副生成物を生成せず、生成物の単離精製が容易であることから優れている。二重結合や三重結合を持つ化合物から環状化合物への異性化や、単結合の切断とそれに続く新たな結合の構築による構造異性体の生成を伴う異性化など、多くの環化異性化の例が報告されている。

最近、我々はカルバミミドチオエートのパラジウム触媒による第四級炭素とスルフィドの連続的な生成を可能とする環化異性化を報告した。この連続反応ではカルバミミドチオエートとアルケンの間の連結部位がアルキレンだけでなくフェニレンでも収率が良いことがわかった。さらに、アルキルおよびアリールカルバミミドチオエートの環化異性化反応は高収率で進行することを見出している。

今回、第四級炭素とスルフィドの連続的な形成を伴うチオカルバメートのパラジウム触媒による環化異性化について検討した。パラジウム触媒によるチオカルバメートの環化異性化反応は第四級炭素とスルフィドの連続的な構築を伴って進行することがわかった。この反応はアリールチオカーバメートだけでなくアルキルチオカーバメートでも起こり、アリールチオカーバメートの方がアルキルチオカーバメートよりも反応は速かった。開発された反応は、アルキレンテトラフェニレンだけでなく、フェニレンテトラフェニレンの反応にも適用できる。同様の構造を持つ基質のパラジウム触媒による環化異性化反応において、チオカルバメートはカルバミミドチオエートよりも反応性が低いことがわかった。今回開発された反応は架橋環の形成にも有効であった。したがって、このパラジウム触媒反応は含窒素多環式天然物の環構築に利用できると期待される。