表題番号:2024R-061 日付:2024/10/31
研究課題耐量子暗号である完全準同型暗号実用化のための新演算方式への挑戦
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 基幹理工学部 教授 山名 早人
(連携研究者) 理工学術院総合研究所 次席研究員 Ruixiao Li
研究成果概要

完全準同型暗号 (FHE) は、クラウドコンピューティング等の第三者サーバにおいて計算を行う際、データのプライバシーを保護するスキームである。しかし、FHEを適用した場合、計算コストが高く、また加算と乗算しか評価できないという算術演算の制限がある。そこで、本研究では任意関数の実現に取り組んだ。具体的には、事前に計算されたルックアップテーブル (LUT) 内に、入力と出力の関係を保持し、任意関数を実現した。従来、1)ビット単位のFHEと、2)ワード単位のFHEを使用したLUT実現手法が存在していたが、前者ではビット数の大きい値を用いる場合、O(s·2^d·m)の計算量となるため、ビット数が増えるとパフォーマンスが急速に低下する。ここで、mは関数への入力値の数、dsはそれぞれ入力と出力のビット長を表す。後者は、前者の問題を解決できるものの、2入力以内の関数実現に留まっていることと、整数のドメインサイズが2NNは単一の暗号文に詰め込まれた要素の数)を超えると高速化が困難であるという問題を持つ。

本研究では、ワード単位のFHEによる準同型テーブルルックアップを実現して任意の多変量関数を評価する「復号を必要としない非対話型モデル」を提案した。本計算方法により、1)計算量をO2^d·m/l)に削減できる(lFHEパッキングの要素サイズ)、2)入力と出力のドメインサイズを拡張できる、3)多次元テーブルの提案によりマルチスレッド化によりレイテンシを削減できるという利点を持つ。

実験結果では、10ビットの2入力関数と5ビットの3入力関数の評価に、16スレッドを用い、それぞれ約90.5秒と105.5秒で結果を返せることを確認した。これは、ビット単位の FHE を使用した単純な LUT 対応計算と比較して、2 ビットおよび 3 ビットの 3 入力関数を評価する際に 3.2 倍と 23.1 倍の高速化となる。