表題番号:2024R-060
日付:2025/03/29
研究課題アルゼンチン共和国ブエノスアイレス市における日系洗染業の展開
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 高等学院 | 教諭 | 佐々木 智章 |
- 研究成果概要
- 20世紀半ばから後半にかけて、ブエノスアイレス市内において洗染業は日系人の代表的な職業であった。激減した現在においても経営を継続している日系の洗染業者の特徴を明らかにすることが本研究の目的である。2024年8月半ばにブエノスアイレスを訪れ、資料収集とともに聞き取り調査を行った。 日系洗染業の数がどのように変化したのかについて具体的な資料はなかったが、2010年頃から300件程度と急激に減少したことが聞き取り調査から明らかになった。高齢化と後継者不足に加えて、このころ日系の洗染業者が使用していた薬品や機械を規制する法律が制定されたことが要因として大きかった。高齢化と後継者不足は、経営を継続している方にとっては現在でも大きな課題である。例えば、聞き取り調査を行った店舗の主たる経営者の年齢は60歳代~70歳代であり、既に子どもの世代は別の職業についている場合が多く、現在の世代で店を閉じる方がほとんどであった。また、現地の従業員を雇用して、そちらに経営を託す店舗もなかった。さらに、先行研究で指摘されている組合や日本人会などのエスニック組織については、存在しているものの、それが経営継続の判断に大きな影響を与えていることは伺えなかった。 新型コロナウイルスのパンデミックが人々のスーツ離れを促進したことによって客も減少し、経営状況は良いとは言えない。かつてから丁寧な仕事によって信頼されている日系人の洗染業者にはスーツのような特別な衣類を持ち込む客が多いとのことで、こうした社会の変化も経営に圧力をかけている。このような状況の中で「日系人を代表する職業だから」「生きがいだから」を継続の理由に挙げる方もいる。日系人としてのアイデンティティなど収入以外の面が経営継続に大きな影響を与えていることを伺うことができた。 実際の経営状況については、今回の調査では踏み込むことはできなかった。今後の課題としたい。