表題番号:2024R-048 日付:2025/03/01
研究課題量子化学計算による鉱物表面におけるペプチド形成機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 国際教養学部 教授 稲葉 知士
研究成果概要

地球に帰還した探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰った岩石試料の中に、23種類のアミノ酸を含む約2万種の有機分子が発見された。さらに、リュウグウの試料にある有機物は鉱物表面に濃集していることが明らかにされたため、鉱物表面において、より複雑な有機物が生成された可能性がある。そのため、本研究では、小惑星などの小天体の鉱物表面上におけるアミノ酸のペプチド形成過程を分子レベルで明らかにすることを目的にする。今年度は、アミノ酸と鉱物表面の反応過程について調べた。アミノ酸が鉱物表面でペプチド形成するためには、まずはアミノ酸が鉱物表面に吸着する必要があり、アミノ酸の鉱物表面への吸着過程を明らかにすることは重要である。本研究では、鉱物表面の構成成分として、ダストの主成分である珪酸塩鉱物を考えた。鉱物表面を記述するモデルには、化学者が利用するクラスタモデルと、物理学者の利用する周期境界条件モデルがある。今年度の研究では、クラスタモデルを用いて珪酸塩鉱物表面をモデル化した。具体的には、先行研究を参考にして、エディントン結晶のヒドロキシル化した表面を持つように珪素を6元素含むようにして、鉱物表面をモデル化した。我々は量子化学計算を行い、グリシンの珪酸塩鉱物表面への吸着過程について調べた。まず、鉱物表面にあるヒドロキシ基の酸素原子に、グリシンのヒドロキシ基の水素原子が水素結合し安定構造を作る。その後、グリシンの水素原子が鉱物表面のヒドロキシ基に移動する。グリシンの酸素原子が鉱物表面の珪素原子と結合を作り、吸着過程が完了することがわかった。この鉱物表面に吸着したグリシンに別のグリシンが接近し、ペプチド結合が作られると考えられる。