表題番号:2024R-039
日付:2025/03/26
研究課題重要文化的景観等の景観保全が必要なエリアでの災害復旧時の文化財と営農の場の二面性への対応に関する研究
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 社会科学総合学術院 社会科学部 | 准教授 | 落合 基継 |
- 研究成果概要
- 農村地域に存在する,文化財と現役の営農施設としての二面性を持つ重要文化的景観選定地域等を対象として聞き取り調査を行った。熊本県山都町にある重要文化的景観「通潤用水と白糸台地の棚田景観」について,その要素のひとつである通潤橋は,江戸末期建設の日本最大級の石造りアーチ水路橋であり,重要文化的景観の一部でありかつ2023年には国宝に指定されている。そして現在も白糸台地の農地に水を運んでいる現役の水路橋である。また白糸台地上の農地や水路も重要文化的景観の要素であり,現役の農業施設である。文化財であり現役の農業施設であるという二面性をもつこれらは,2016年4月の熊本地震および同年6月の豪雨により被害を受けた。この被害からの復旧作業の際,文化財面や営農面をどのように調整し対応したのかについて,山都町役場の文化財担当者へ聞き取り調査を実施した。通潤橋については“文化財”として文化庁所管の文化財関係の復旧事業を活用し,建設当初と同じ工法での橋や水路の修復を十分な時間をかけて実施している。一方,白糸台地上の農地や水路は“農業施設”として農林水産省所管の農業施設関係の復旧事業を活用し,早期的・経済的な工法による復旧を実施している。白糸台地上の農地や水路も文化財の要素ではあるが,早期に復旧をしないと農業者が農業をあきらめてしまう。農地を修復しても農業をする人がいないという状況になってしまうことで,耕作放棄地となり文化財としての価値もなくなることから,早急な対応と時間をかけた対応でジレンマとなった。また,観光資源としての文化財・通潤橋として,放水が人気があるが,元来放水は通潤橋の内部の水路のつまりなどを掃除することを目的として年に数回実施されてきたものであり,放水の回数が多くなれば水路に負担がかかってしまうことから,観光資源と農業施設としての役割でのジレンマもあることがわかった。