表題番号:2024R-007 日付:2025/03/14
研究課題古代・中世における列島規模の新しい地域社会史像の解明と「交名学」の構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 教授 川尻 秋生
(連携研究者) 文学学術院 教授 川瀬由照
(連携研究者) 文学学術院 准教授 下村周太郎
(連携研究者) 東京大学 名誉教授 田島 公
(連携研究者) 富山大学 教授 鈴木景二
(連携研究者) 京都橘大学 教授 小林裕子
研究成果概要
 標記の課題につき、下記の研究を行った。 「水落地蔵」納入品「諸国勧進交名」の写真版に基づき、これまでの翻刻史料に訂正を加えた釈文を作成した。 また、京都府立京都学・歴彩館などにおいて、水落寺に関する史料を収集するとともに、かつて水落寺が存在した京都市上京区小川通・水落町において、現地調査を実施した。その結果、現在暗渠となっているものの、かつて小川が流れていた痕跡を確認するとともに、水落寺跡の現地比定を行うことができた。さらに、2025年3月には、重要文化財に指定されている本資料について、連携研究者5名とともに、京都国立博物館において、実物の調査を行うことができた点は大きな成果である。この調査により、これまでの疑問が解消した点もあり、また、今後の研究課題についても新たに認識できた。今後の研究について、大きな見通しを得ることができた点で、大きな前進であった。 一般書としては、申請者の責任編集になる『シリーズ 古代史をひらくⅡ 列島の東西・南北』(岩波書店、2024年9月)のなかで、川尻秋生「東国 ヤマト王権の軍事的基盤」のなかで多くのページを割いて、「諸国勧進交名」に基づく内容を執筆した。そこでは、昨年度公刊した川尻秋生「文治二年諸国勧進交名から見た古代・中世の房総 : 「水落地蔵」納入品の分析から」(『千葉史学』83、2023年11月)で述べた、上総国と東北地方の関係について、一般の読者向けに平易な文章を執筆した。 本書の反響としては、史料の少ない古代・中世初期の東国の歴史を豊かにするのみならず、東国の古代と中世を接続できる好史料として、注目を集めつつある。今後は、「諸国勧進交名」のみならず、納入品に含まれる書状などの資料にも目配りをしつつ、水落地蔵の美術史的研究にも力を入れていきたい。 残念ながら、2025年度の科学研究費では不採択になったが、今後とも、列島の3分の2にわたる地域で勧進が行われた重要性を説き、交通・氏族・信仰など、多様で豊富な内容を包括する本資料群を用いた古代・中世史研究を邁進するつもりである。