表題番号:2024Q-010 日付:2024/11/10
研究課題フランス諸都市における都市化と住民組織の形成史-都市公共交通整備の問題を中心にー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 商学部 准教授 國府 久郎
研究成果概要
 現在、日本の都市において、行政の手が行き届かない様々な仕事を担ってきた町内会や自治会のあり方が問われている。フランスでも街区(quartier)を基盤として活動する任意の住民組織である街区委員会(Comité de quartier)が存在する。しかしながら、こうした組織がどの都市にどの程度の数で存在するのか、またそれはどの時代に誕生したのかについての全国的な調査は、フランスでも依然として実施されていない。
 街区委員会は都市化を推進する大きな役割を果たしたが、一方で、その「地域代表性」をめぐる問題は、住民組織が誕生した19世紀末から現在まで解決されていない。日本では、社会学者の中田 [中田実『世界の住民組織―アジアと欧米の国際比較―』2000年等]や法社会学者の高村 [高村学人『アソシアシオンへの自由―<共和国>の論理―』2007年等]が、中都市のグルノーブル、アミアン、ニーム市を現地調査し、街区委員会の機能と市当局との関係を検討することで、街区委員会の代表性を明らかにしようとした。各都市の住民組織が出現したのは1920年代とされ、新興住宅地での道路、街灯、ガス管の整備、排水対策を要望するために住民が結集したのが組織化の発端であると論じられている。確かにフランスでは、街区を範域として活躍する任意の住民組織としての街区委員会は、とりわけ人口増加による都市問題が激化した1920~30年代と1960~70年代に結成されたものも多く、今日も街区の住民の要求を市政に伝達するものとして存在している。また、街区委員会の非営利団体届や規約などにも、1920年代をその創設年と記しているものも多い。
 それでも、フランス人の地理学者ティエリー・ジョリヴォーは、1987年に刊行した研究において、リヨンでは1890年代から街区委員会が形成され始めた事実を明らかにしている。さらに、申請者もマルセイユの史料調査により、郊外への都市化が進行し始めた1890年代に、街区委員会が集会を開催したのを地元の新聞記事で確認することができた。このように、街区委員会が形成された歴史的起源を正確に調査しなければ、これら住民組織の「地域代表性」をめぐる問題は真に解決ができないのである。