表題番号:2024E-033 日付:2025/02/10
研究課題安保改定と自由民主党
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 先端社会科学研究所 助教 浜砂 孝弘
研究成果概要

本研究では、岸信介政権による安保改定と、自民党政権の長期安定化ないし一党優位政党制の確立との関係を検討した。

従来この問題では、池田勇人政権による安保闘争後の「政治から経済への転換」と、自民党の包括政党化が注目されてきた(「六〇年体制」論)。これに対し、本研究では安保改定をめぐる自民党の政治外交過程それ自体に焦点をあてた。それは、保守合同交渉で経済・社会政策の調整が優先され、外交・安全保障政策の合意形成が積み残されたこと、その結果、草創期の自民党は重要な外交交渉のたびに分裂の危機に陥ったことによる。

 得られた知見は以下の通りだ。1958年秋に安保改定交渉が開始されると、ソ連及び中国が反発して日本中立化を唱導し、革新勢力は安保闘争に突き進んだ。そこに、自民党では対米貢献を重視する吉田茂ら旧自由党系と、対共産圏外交への影響を警戒する河野一郎、石橋湛山、三木武夫ら旧民主党系の対立が顕在化した。これを、国際共産主義勢力による日米離間及び自民党分断への一連の工作と捉えたのが、船田中、賀屋興宣ら党内右派の面々だ。彼らは、日米安保体制を経済的利益の観点から正当化する論理を生成し、安保体制による「軽武装」が経済復興をもたらしたと唱え始めた。この「安保効用論」は池田政権に引き継がれ、「吉田路線」論の基軸化により、路線対立の収拾に目処が立った。このように、保守合同で積み残した外交政策の合意形成を補完し、「政治から経済への転換」に向けた政策面の環境を整えた安保改定は、自民党政権が長期安定化と一党優位支配制の確立に向かう重要局面といえよう。

 以上について、研究代表者は日本政治学会にて口頭発表した(浜砂孝弘「安保改定と自由民主党」日本政治学会、於名古屋大学、2024年10月6日)また、この内容を含む単著を刊行した(浜砂孝弘『安保改定と政党政治―岸信介と「独立の完成」―』吉川弘文館、2024年)。