表題番号:2024E-031 日付:2025/03/16
研究課題対支文化事業の思想と行動―日中両国知識人による言説の異同に注目して―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 社会科学部 助手 桑原 太朗
研究成果概要
まず本研究では、第一次世界大戦後の日本で新たに広まった認識として、文化を国際的な「闘争」ではなく「協力」ができる分野としてみなすことを指摘した。当面の政治問題を離れ、長期的かつ普遍的な課題を共有することで国際的な「協力」を実現し、「協力」を継続することで国家どうしの関係も改善するという論理である。一方「旧外交」時代から連続する要素としては、対外文化政策を「競争/闘争」とみなす認識がある。これを主張する論者のほとんどは、「新外交」理念に冷めた態度で向き合い、対外文化政策をあくまで軍事力に代わって他国を動かす代替手段とみなした。「競争/闘争」的な対外文化政策認識は1920年代の論壇に存在し、1930年代初頭に文化事業部内に持ち込まれることとなる。ただし、政策当局者にとって「競争/闘争」に基づく対外文化政策構想は単純な先祖返りではなく、第一次世界大戦後に広まった外交における大衆の役割を重視する思想を政策に具現化することを意味していた。
次に、「対支文化事業」の理念は「新外交」理念と中国の特殊な思想状況によって形成されたことを指摘した。「新外交」理念の受容とともに、中国に排他的な政治・経済的影響力を行使することは「協調主義」に反するため忌避され、文化事業によって中国の近代化を支援する形式をとるようになった。ただし、「新外交」理念だけでは、「対支文化事業」の「非政治化」を説明する要素として不十分である。中国側は「対支文化事業」による中国国民の対日感情改善を「政治的」として強い拒絶反応を示したため、日本側の論壇も同調し始め、外務省は「対支文化事業」の「非政治化」を目指すことになったのである。
これらの研究成果は、博士学位申請論文「戦間期日本における対外文化政策論の展開 ―「協力」と「闘争」のはざまで揺れる「対支文化事業」―」(早稲田大学、2月10日)において発表された。