表題番号:2024E-029 日付:2025/02/23
研究課題進化工学に基づくファージセラピーの最適化:多様な細菌と耐性菌に対する新しい戦略
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 助手 金子 知義
(連携研究者) 早稲田大学 教授 常田聡
研究成果概要

LPSを感染の足がかりとするファージとそのファージが感染する大腸菌株S、そしてそのファージが本来感染することができない大腸菌株Rの3者が共存する環境で大腸菌株Rに感染できるようファージを進化させた。この進化ファージの全ゲノムを調査したところ、宿主の認識部位としてよく知られる尾部繊維に変異が入っていた。そこで、この尾部繊維はLPSを認識するものとして著名であるため、大腸菌株RLPSの構造を調査した。その結果、大腸菌株SLPSR core構造がK-12型なのに対して株RR1であることがわかった。このことは本課題とは別の課題の内容とともに現在プレプリントサーバーbioRxivに公開されており、またJournal of Virologyへの投稿準備を進めている。株RR coreを部分的に欠損させた株のミニライブラリーを構築し、これらに野生型および進化ファージを感染させたところ、進化ファージは化学修飾された糖を認識できるようになっていることがわかった。さらにこの進化実験を技術的および生物学的に複数の複製をとったが、進化の仕方は一様であり、少なくとも特定の条件では進化の軌跡はトレース可能(進化は再現可能)であることが示唆された。また、進化ファージでは尾部繊維の変異が共通しているものの、他の核酸部位にも変異が認められた。そこで、尾部繊維の変異が真に宿主域変化に重要な役割を果たしたかを調べるために、野生型のファージに進化ファージの尾部繊維の変異を導入し人工進化ファージを合成した。その結果、通常の進化ファージと同様に宿主認識範囲が広がっていることを確認できた。

現在、進化によって得られた変異がLPSのどの糖を標的として利用できるようになったかを調査中であり、この調査の終了後に本研究の内容を論文としてまとめる予定である。