表題番号:2024C-773 日付:2025/03/31
研究課題非自明な背景場中での場の量子論の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等研究所 講師 山田 悠介
研究成果概要
本年度は非自明な時間依存性を持つ系における場の量子論の研究に関して、大きく分けて二つのテーマを進めた。
一つは時間依存する質量をもつ量子場の散乱問題である。以前の我々の研究において、時間依存する質量をもつスカラー場に関し、自由場について厳密解が存在する系を用いた摂動計算により、時間依存する質量を持つ量子場を含む粒子散乱問題では、それまでに知られていなかった新しい粒子散乱過程が存在することを初めて発見した。しかし、その模型では質量が漸近的に発散するという非物理的性質があったため、発見された散乱過程が物理的に妥当であるか疑問が残っていた。そこで私は自由場が厳密解をもつ新しい系を用いて同様の問題を考察した。今回扱った模型では粒子質量の時間依存性が漸近的に消失することから前述の非物理的な振る舞いは現れない。しかし、我々の先行研究の模型と同様に非自明な粒子散乱過程が存在することを解析計算により明らかにできた。このことから、時間依存する背景中の場の量子論特有な非自明な散乱過程は一般的な性質であることが示唆され、本研究成果は初期宇宙における宇宙の熱化過程に重要な役割を果たすことが期待される。本研究の成果は論文にまとめ、学術誌に掲載されている。
二つ目は高次元時空における量子効果を含む宇宙の時間発展に関する研究である。高次元時空から有効的に4次元時空が生まれる過程の模型化を目的として、最も簡単な高次元時空宇宙模型として膨張する5次元時空宇宙模型の構成を試みた。本研究ではコンパクト化条件として比較的に簡単なものを選ぶことで量子効果等を解析計算できるようにしており、宇宙の時間発展方程式であるアインシュタイン方程式等を解析的に記述できている。最終的に量子場に伴う無限自由度を有限化した後に数値計算によるシミュレーションを実施するために、解析計算等を進めている。