本研究は、日本のスタートアップ企業における従業員の定着（リテンション）に寄与する施策として、金銭的および非金銭的報酬の影響に注目した調査・分析を行った。スタートアップは、大企業と比べ、経営資源が限られていることや、従業員の働く動機が金銭的報酬ばかりでなく個人の成長や社会貢献である場合があるなどの特徴を持つ。先行研究では、報酬が個人のパフォーマンスや定着に与える影響はこれまで検討されてきているが、とくにスタートアップに焦点を当てた研究は限られていた。

　そこで本研究は、日本のスタートアップ企業500社余を対象とした質問票調査の分析を行った。結果、非金銭的報酬は従業員の定着に直接的な影響を与えていないようであった。むしろ、非金銭的報酬は、金銭的報酬と組み合わさってはじめて従業員の定着に寄与することが明らかとなった。その他、この関係を増幅するいくつかの変数が存在することも明らかとなった。

　以上の研究成果について、イノベーションやアントレプレナーシップの分野の国際学会であるISPIMにおいて報告を行った。得られたフィードバックをもとに、フルペーパーとして完成させ、今後英文学術誌への投稿を行う予定である。