表題番号:2024C-731 日付:2025/03/26
研究課題2成分相対論に基づく量子化学計算の並列計算手法の開発と汎用プログラムへの公開
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 助教 高島 千波
研究成果概要

化学現象を理論的に予測する手法のひとつである量子化学計算では、周期表の高周期に位置する元素を対象とするとき、相対論効果を取り込むことが必須となる。このような相対論的量子化学は膨大な計算コストを必要とするため効率的な計算手法を開発し、実用化することが求められている。本研究では相対論的量子化学のひとつである2成分相対論に基づき、大規模計算機クラスターによる並列計算を実行するための枠組みを開発した。2成分相対論の計算において律速となるのは電子間の相互作用を計算する2電子積分であり、計算時間は分子のサイズNに対してN5、データ量はN4に比例して増加する。そこで理論開発では2電子積分に着目し、電子に属する2つの基底関数の組に基づいて演算を計算機クラスターに割り振るアルゴリズムを開発した。プログラム実装は相対論効果の局所性に基づく線型スケーリング手法である局所ユニタリー変換と組み合わせて行った。また、2電子積分の膨大なデータ保存を回避するdirect SCF法も適用した。プログラムの並列性能は、1次元モデルである直鎖状のアスタチン化水素10量体と3次元モデルである正四面体型の金10量体を用いて検証し、実用に耐えうるパフォーマンスを示すことを確認した。実在系への適用としてプラチナ13核錯体[Pt13(C7H7)6]2+のエネルギー計算を行い、計算時間を計測した。[Pt13(C7H7)6]2+は積分のデータ量の観点から従来のプログラムでは計算が困難であったが、本研究で開発したプログラムによって実用的な計算環境および計算時間で取り扱うことが可能となった。以上の研究成果を原著論文としてJournal of Chemical Theory and Computation に出版した。当該論文はSupplementary Journal Coverに採用された。