研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 理工学術院 先進理工学部 | 教授 | 上田 太郎 |
- 研究成果概要
熱帯熱マラリアは人類が直面する深刻な感染症であり、新規な抗マラリア薬の開発が喫緊の課題となっている。近年、マラリア原虫の感染に関わる分子機構の解明が進み、分子標的薬のスクリーニングも可能となってきた。たとえばTrivediら(2022)は、原虫が赤血球に侵入する際に必須のミオシンPfMyoAに対するスクリーニングを実施、強力な低分子阻害剤KNX115を発見し、これがin vitroで原虫の赤血球への侵入を阻害することも確認した(ただしKNX115は動物体内での代謝が速すぎるため、薬剤候補としてはドロップされている)。しかしこのときのTrivediらのスクリーニング系は組換えPfMyoAのATPase活性阻害を指標としたものであり、タンパク質調製に多大の労力を要し、再現性にも難があった。そこで本研究では、マラリア原虫のアクチンミオシン系を標的とした、より簡便な細胞ベースのスクリーニング系を開発し、スクリーニングの大幅な加速を目指した。さて細胞性粘菌Dictyostelium discoideumのアメーバは通常基質に接着しているが、ATP合成阻害剤であるNaN3で処理すると、短時間(3分程度)で基質から脱離する。この急性の反応は、細胞内のミオシンIIの活性に依存する。そこで、D. discoideumミオシンIIのモータードメインをPfMyoAのモータードメインで置換したキメラミオシンIIを、ミオシンIIをノックアウトしたD. discoideumアメーバで発現させ、NaN3処理に対する反応性を調べた。この際、キメラミオシンII重鎖のみではなく、PfMyoAの二つの軽鎖および特異的シャペロンPUNCも共発現した。その結果、キメラミオシンIIの発現によりNaN3に対する反応性が部分的に回復することを見いだし、今後の条件検討によって薬剤スクリーニングが可能になるとの感触を得た。