表題番号:2024C-702 日付:2025/03/27
研究課題多様なサステナビリティ活動に対する株主のニーズの解明に向けた数理モデル研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 商学部 准教授 若林 利明
研究成果概要
 本研究は,なぜある企業では株主が経営者に特定のサステナビリティ活動(sustainability practices)を要求し,その他の企業ではそのようなサステナビリティ活動を要求しないのかを伝統的なエイジェンシー理論にサステナビリティへの従事を追加した数理モデルを用いて明らかにする。先行研究は、経営者が株主のニーズを反映してサステナビリティ活動に従事することを示唆している(Cohen et al. 2023; Maas 2018; Tsang et al. 2021)。しかし、企業が従事するサステナビリティには、カーボン、カーボン以外の環境、安心と安全、ダイバーシティ&インクルージョン、従業員満足度、地域コミュニティなど、多数のメニューが存在し,企業ごとに異なる。なぜそうした違いが生じるのか、既存の研究では説明できない。このギャップを埋めるためには、株主はどのようなサステナビリティ活動に対してどの程度ニーズがあるのかを、いわゆるビジネスモデルからの価値創造プロセスに基づき明らかにする必要がある。そのためにエイジェンシー理論の枠組みは有用である。本年度の分析により、以下のことを明らかにした。第1に短期主義だけでは解釈できない、株主がサステナビリティ活動を要求しない場合を発見した。第2に、比較静学分析を通じていくつか興味深い結論を得た。例えば、投資的ESGにおいて、将来の価値棄損の程度に対して最適な財務指標のインセンティブ係数は逆U字の関係となる。ESG投資と財務指標に対するインセンティブ設定は線形ではなく、実証研究においても企業価値の棄損の程度によって凸型であることを考慮する必要がある。
 本研究の成果は、日本会計研究学会 第83回大会(早稲田大学)において報告を行なった。改訂の後、英文ワーキングペーパー"A theory of firm sustainability practices and compensation contract"を執筆し、国際誌に投稿予定である。