表題番号:2024C-688 日付:2025/03/24
研究課題サミュエル・ベケットのテレビ作品と1960~80年代の大衆的テレビ番組の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 助手 朴 夏辰
研究成果概要
 本研究は、サミュエル・ベケットのテレビ作品を対象に、1960~80年代の大衆的テレビ番組の形式・技術との共通点を考察し、ベケットのテレビ的美学を明らかにすることを目的としていた。ベケットは20世紀のモダニズム・ポストモダニズムの作家として著名だが、テレビ形式を批評的に扱う実験テレビ研究においても重要な作家である。しかし、ベケットの個人的なテレビ視聴体験に関する資料が乏しいため、ベケット研究とテレビの研究の両分野で、作品表現と放映時の慣習的なテレビの技術・文化との影響関係の分析は十分になされてこなかった。本研究は脚本・映像分析と草稿や手紙等のアーカイヴ調査に、ベケットとは無縁とされてきた大衆的テレビ研究の視点を加えることを行ってきており、ベケットの実験的テレビの試みには、60~80年代の慣習的な番組形式・テレビ技術・主題を批評的に取り入れている側面があることを明らかにしてきた。
 この研究はベケットがテレビ作品として構想した全5作品を中心に、BBC Written ArchiveやUniversity of ReadingのSamuel Becket Collectionに所蔵される当該作品の草稿や視聴者調査も下敷きにしつつ、テクストと映像の両側面から作品分析を行ってきた。本年度、この研究は ‘Media Archaeology in Samuel Beckett’ Television Plays’というタイトルで博士論文として結実し、申請者が博士課程に所属していたUniversity of Readingに提出、9月にPhDを取得するという結果を得た。
 特に今年度は、ベケットに作品を依頼、放送したBBCと南ドイツ放送のテレビ産業や技術共同開発の歴史を調査し、さらにイギリス・ドイツにおける実験的テレビの大衆的テレビにおける立ち位置や定義を踏まえたうえで、ベケット作品における実験性と大衆性の融合を再検討することで論文を完成させた。本研究はメディア考古学という、歴史上新たに発明されるメディアに過去のメディアの痕跡を見出す手法を通し、ベケットのインターメディア性を分析していき、彼のテレビ作品がテレビというメディウムの、絵画、写真、映画、演劇などの性質を併せ持つハイブリッド性を際立たせ、批評し、脱構築していく試みを詳細に提示した。