表題番号:2024C-676 日付:2025/06/03
研究課題ノンパラメトリックな所得効果を取りこんだ差別化財需要モデルの推定
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 政治経済学部 准教授 遠山 祐太
(連携研究者) UC Santa Barbara Ph.D. Candidate Shuhei Kaneko
研究成果概要
本研究は、差別化財の需要関数推定に関する柔軟な推定方法を提案すると同時に、応用事例として補助金の価格転嫁分析及び企業合併分析におけるシミュレーション予測の改善を試みてた。本研究の第一段階として、差別化財の需要関数モデリングに幅広く用いられている離散選択モデルについて、所得効果を柔軟かつノンパラメトリックに取り込む方法を提示した。本モデリングによって、自己価格弾力性のパターン及び需要関数の形状について、関数形に仮定を置かずに柔軟な形で推定することができる。需要関数の形状は、企業の価格付け問題において重要な役割を果たす。特に、費用ショックの製品価格への転嫁(pass-through)や、企業合併による製品価格上昇に関する予測は、推定された需要関数の形状に強く依存する。本研究では応用例として日本の自動車市場に着目し、提案したフレームワークによる需要関数の推定を行った。推定結果に基づき、現在、(1)日本で2000年代後半から2010年前半に導入されていたエコカー補助金制度における補助金の製品価格への転嫁、及び(2)自動車会社間の仮想的な企業結合に関するシミュレーション分析を行った。既存研究で用いられるパラメトリックなモデルと比較したところ、我々のセミパラメトリックなモデルにおいては企業結合による価格上昇率がおおよそ2.5倍高くなるという結果が得られた。この結果は、我々のモデルにおいては、需要関数の形状(特に二回微分に相当する需要関数の曲率)をより柔軟に推定できることに起因している。我々の結果からは、パラメトリックな需要モデルを用いると企業結合がもたらす価格上昇効果を過小評価する可能性があるという、政策実務的にも重要な点が示唆される。
本成果は国際査読誌Journal of Industrial Economics(査読付き)に採択された。