表題番号:2024C-634 日付:2025/04/04
研究課題平安・鎌倉期の古記録・文学作品に残る法華懺法の調査
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) グローバルエデュケーションセンター 助手 矢島 正豊
研究成果概要
本研究では、日本仏教の儀礼である法華懺法を検討の対象とし、平安・鎌倉期の古記録・文学作品に残る法華懺法営為の記録を調査することを目的とした。法華懺法は中国隋代の僧智顗(538-597)が著した『法華三昧行法』を典拠とした儀礼である。同書は本来、法華三昧という坐禅の境地を得ることを目的とした行法書であったが、日本には同書に示される次第のうち、六根の罪障懺悔法と『法華経』読誦のみを抜粋して構成された儀礼用の次第書(次第本)が現存し、同書に基づく法会が平安中期以降、盛んに営まれている。
今回の研究で古記録や文学作品を調査したところ、この儀礼には「自身の罪業を滅除するための営為」と「亡者の罪業を滅除するための営為」の二種類があることがあきらかとなった。「自身の罪業を滅除するための営為」には、修行に際して自身を清浄にする目的のほかに、自身の往生に備えた修善の目的もある。「亡者の罪業を滅除するための営為」は必然的に葬送儀礼や没後の追善儀礼としても機能しており、平安中期以降の貴族や天皇に重視されていたことが窺える。特に法華懺法が追善儀礼として営まれたことで、儀礼を修するための堂宇(法華堂、法華三昧堂)は貴人の墓所付近に建立されるようになり、後には堂宇自体が墓所へと展開している。今後は日本中世における葬送史として法華懺法がどのように展開しているのかに注目し、研究を進めていく予定である。