表題番号:2024C-620
日付:2025/02/25
研究課題貫休「古意九首」考
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 高等学院 | 教諭 | 小田 健太 |
- 研究成果概要
- 晩唐の詩僧、貫休(832~912)の「古意九首」は、詠じられた時期と場所が比較的明瞭な作品である。この連作について、胡大浚は次のように指摘している。組詩回憶少年時期生活、抒懐言志。末章云、「憶在山中時、丹桂花葳蕤。……別来六七年、只恐白日飛。」蓋憶昔年入五洩山中修禅情景。詩人大中九年底離五洩山寺、言「別来六七年」、則咸通二三年間(八六一―八六二)作於廬山。(胡大浚箋注『貫休歌詩繫年箋注』中華書局、2011、53頁)この連作では若かりし頃を回想し、懐中の志を述べていく。とりわけ五洩山中にて修行していた際の情景が念頭にあるという。また、連作の末尾である〈其九〉にある「別来六七年」という句から、咸通2年か3年、貫休が廬山にいた際に詠じられたものと説明している。この時、30か31歳であった貫休は、すでに具足戒を受け、詩人としての名声も高まったいた。しかし、詩人としての貫休の長い経歴からすれば、まだ初期の段階であるといえよう。「古意九首」は、確かに回想に主軸を置いた連作ではある。しかしこの連作は、複層的に構築されている。回想とはいわば、直接的に体験された過去を語ることであるが、本連作は、そこに間接的に体験された過去(非体験過去)―これは内省によって見出される―を突き合わせることで、より精確に自己を規定していく営みの一つであると考えられるのである。本研究では、「古意九首」が貫休の他の作品の中で、あるいは貫休以外の過去の同題の作品の中でいかなる位置を占めているのかを確認し、その上で、回想と内省の切り結ぶ地点に、いかに貫休の自己が規定されているのかを明らかにしていった。