表題番号:2024C-618 日付:2025/04/03
研究課題三宝尊の『般若波羅蜜多円集要義論註』における自己認識論の分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 飛田 康裕
研究成果概要
三宝尊は、『般若波羅蜜多円集要義論註』の著者として知られ、チベット伝承では5世紀頃のインドの学僧とされている。そして、その著書は、やはり5世紀頃の人とされる陳那の『般若波羅蜜多円集要義論』に対する註釈である。陳那は、インド仏教界にあって論理学の体系化に先鞭をつけた人物である。そのため、彼の主著『集量論』の研究は国内外において盛んに行われ、その論理学体系が徐々に解明されつつある。しかし、彼の論理学が偏重される一方で、それ以外の彼の思想――例えば、唯識思想や般若思想など――については未だ十分な研究がなされていない。その意味で、三宝尊の註釈を分析することは、陳那の思想体系全体を明瞭にするための助けともなる。さて、この三宝尊の著書に中は「自己認識」に基づいた論証の展開される箇所が存する。そして、陳那もまた「自己認識」を主張したことで有名である。本研究は、三宝尊の自己認識論証を分析して、その特徴について考究し、さらに、その関連から陳那の自己認識論の特徴についても明らかにしようとする試みである。進捗状況としては、三宝尊の著書の該当箇所については、現代日本語による一通りの試訳を終え、現在、その分析を通しての和訳修正の途上にある。よって、陳那の自己認識論の特徴については明らかにする段階には到っていない。しかしながら、三宝尊の自己認識論の特徴について、その一端を示せば、以下のように言うことができる――いわゆる『般若波羅蜜多経』において頻りに説かれる「空性」は、世俗の智慧によっても捉えることのできるあり方である。しかるに、この「空性」は、勝義の智慧(最高の智慧)によって捉えられるとき、「二つのものを有しない智」(無二智)であり、「本来的に清らかな智」であると理解される。そして、三宝尊は、この智こそを自己を認識する智とみなすである。今後は、引き続き、論証の分析を進めるとともに、和訳の完成を期す。